ヨルダンに避難したシリア難民の子どもたち

目次

シリア危機とヨルダン

「今世紀最悪の人道危機」と言われるシリア危機。紛争が起きる前まで、シリアは文学や音楽など文化の中心地であり、保健サービスや教育も無料で提供されていました。発端は、2011年、日本で東日本大震災が起きた年に遡ります。「アラブの春」と呼ばれる民主主義と自由を求める活動が中東地域各国で起こるなか、シリアでも政府への抗議デモが起こりました。デモを鎮圧する国軍側と多様な反体制派の間で、次第に武力を伴った衝突は内戦へと発展していきました。さらに、外国による介入、過激派組織などの武装勢力の登場によって内戦は激しさを増し、その結果、約1,200万人が故郷を追われ、その多くは今日も、故郷や家に戻ることができていません。

※動画で見るシリア危機

シリア危機から10年、ワールド・ビジョンとシリアの歩み|国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパンhttps://www.youtube.com/watch?v=G7-OhedCzj0

生き延びるため必死に新たな地へ避難した人々を受け入れている国の一つがヨルダンです。2011年のシリア危機以降、近隣諸国では3番目のシリア難民の受け入れ国となりました(2023年UNHCR)[1]。ヨルダンに暮らすシリア人難民の数は、登録されているだけで66万人、未登録者も含めると 130万人にも上るといわれています[1]。世界銀行の基準でヨルダンは中所得国に分類されていますが、国民と同じように難民にも教育や保健医療といった公共サービスを提供しているため、ヨルダンの国の財政的な負担も大きくなっています。

シリアとヨルダンの位置
【参考】ワールド・ビジョン・ジャパン(https://www.worldvision.jp/news/works/cee/202010_jordan.html)
ヨルダンのアズラック難民キャンプ

ヨルダンに暮らすシリア難民の子どもたちと教育

ヨルダン政府はシリア難民の子どもたちも教育を受けることができるよう、多くの公立学校で、ヨルダン人が午前中、シリア人が午後に通学する二部制を導入しています。シリア難民の子どもたちの多くが公立学校に入学できた一方、まだ学校に戻れていない子どもたちもいます[2]。学校に行かない子どもたちは児童労働や早婚といった危険にさらされます。学校に戻ったとしても、退学が大きな課題となっています。退学の背景には、二部制で十分な学習時間がないこと、1教室あたりの児童数が多すぎること、教員が足りない、教室やトイレ、手洗い場など設備が足りない・壊れている、といった学びの質や環境の悪化があります。特に難民の子どもたちは紛争や避難中の学習の遅れやカリキュラムの違いなどにより、学校での学習についていくのが難しいことも多いです。また紛争の長期化に伴い地域住民と難民との間に軋轢や差別が生じており、子どもたちの間でもいじめや差別の問題があります。

子どもたちの声

シリアの紛争で両親を亡くした13歳のタヒニさん。両親が亡くなってから、タヒニさん自身も子どもでありながら、彼女はひとりで4人の妹や弟の世話をしなければいけません。

「妹や弟が安全でいられるか、食べ物があるか、いつも考えています。なぜなら私しか妹や弟の世話をして育てる人がいないから。私ひとりで食料や衣服、病気の時の薬など、生活のすべてを何とかしなければならないのは本当に大変です」[3]

タヒニさんのように紛争によって親を亡くしたり、離れ離れになった子どもは、暴力や搾取など様々な危険にさらされています。タヒニさんのようにきょうだいなど家族のケアをしなければならい子どもや、紛争によって家族の収入が途絶え労働をする子どもたちは、学校に行くこともできません。

16歳のザフラさんの夢はジャーナリストです。シリアの家と学校を追われ、ヨルダンに避難し1年間学校に通うことができませんでした。その後避難先で彼女は何とか学校に戻り、学びを再開することができました。ザフラさんは今、難民である自分が大学へ進学できるのかどうか心配しています。「難民である私たちは、大学に入学するためにヨルダン人とは違うさまざまな条件があるのです」ときどき不安でひどく失望した気持ちになります。自分は何のために勉強するのか?という疑問がわいてきて、何も手につかなくなるのです。それでも彼女は、自分のようなシリアの人々の声や、紛争による苦悩や困難を世界中に発信するジャーナリストになりたいと、モチベーションや希望を見出し、気持ちを奮い立たせています。

ザフラさん(アズラック難民キャンプにて)

ラーマさんは家族とヨルダンに逃れてきました。学校に戻り、参加した教育支援プログラムで夢中になれること、「絵を描くこと」に出会いました。「絵を描くことで自分を表現することができます。絵を描いていると元気であふれる気持ちになります」

紛争など生活を脅かすような危機は、遊ぶこと、学ぶこと、絵や歌などで自由に自分を表現することなど、子どもの日常を奪っていきます。

「もしも私が1日だけ世界の大統領になったら戦争を終わらせたいです。そして世界をよりよいものにしたいです」


[1] https://data.unhcr.org/en/situations/syria

[2] UNICEF, ‘JORDAN Country report on out-of-school children’, December 2020, https://www.merit.unu.edu/new-unicef-jordan-out-of-school-children-study/

[3] World Vision, ‘Hungry and unprotected children: The forgotten refugees’, June 2022, p.20, https://www.wvi.org/sites/default/files/2022-06/WRD_report_2022%20final%20reduced.pdf


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